「秋冬ものの、コートを買いに行かない?」

そう誘われたのは、10月ももう終わるという頃。

私は去年、ピンクのコートを安売りで買ったのだけれども、ボタンが飛んでどこかへ行ってしまっていた。
 
替えのボタンもないし、不恰好なので、今年はもっとしっかりしたコートを買おうと思っていたところだった。
 
今日は日曜日で、学校もないから、私たちは駅で待ち合わせをした。
 
私は15分前に約束の時間に着いたのに、夢くんはもうすでに来ていた。

「随分早いね」
 
待ち合わせの、駅構内のステンドグラス前で彼に声をかけた。

「ああ、おはよう、梨聖ちゃん」
 
ぜんそくの発作を起こしたのは、昨日の今日だ。
 
そんなことがあったとは思えないほど、今日の夢くんは顔色が良かった。

「体調大丈夫?」

「うん。いつもどおり」
 
いつもどおりに、良いってこと?
 
それとも、苦しいのを我慢してるのかな?
 
だけど、彼は苦悶の表情などなしに、爽やかな笑顔で応えてくれる。
 
白いシャツに、黒いパーカーを羽織っている夢くん。
 
相変わらず、何を着てもかっこいい。