職員室に、副担任だった後藤先生がいた。



「…高原か!お~久しぶりだな。おまえ確か東京に就職したんだよな?」

「ええ、まぁ…。よくご存知で」

「知ってるよー。高原は我が校の希望の星だったんだ。噂は風に乗ってくるよ。高校の頃もインターハイに行ったんだろ。君は英雄だよ!」

「そんな大層なもんじゃないっすよ…」



10年ぶりに会った後藤先生に誉め殺しにされそうだった。



「夏休みで帰ってきたのか?」

「いいえ。なんか…ちょっと帰ってみようかと思って!明日仕事だから今夜もう帰るんです」

「そうなのかー。なんだ、飲みにでも行けたらよかったのにな」

「すみません…」

「いや、また今度楽しみしてるよ」

「はい、是非」

「頑張ってるんだなー、高原」

「はい…」



「先生さよーならー」

「おう、さよなら!…いやぁ、この学校も今は平和だよ。なんてったって不登校児がひとりもいない!素晴らしいことだ!」



帰っていく生徒を見送りながら、後藤先生は誇らしげにそう言った。