ある朝、突然森がうちに来た。



「俺、田舎に帰る。で、挨拶に来たんだ」

「マジかよ…、急だな」

「そうでもないよ。実は1年くらい前から考えてたんだ。うち自営だからさ…」

「そうだったのか…」



森は田舎に帰って家業を継ぐのか…。



「じゃあ高原、元気でな」

「うん、森も」

「あ、そうだ。さっきそこで福澤に似た娘見かけたけど…」

「そう。たぶん本人だよ」

「マジで?まさか近くに住んでんのか!?」

「ああ」

「うひょー、未だにおまえのこと好きなのかな?純愛だねぇ!でもちょっと怖くね?」

「何が…ただの偶然だよ。彼女はもう…昔とは違うんだ」

「へぇー。俊平ちゃん残念そうね!」




森は僕をからかうように言ったが、図星だった。

そんな真顔の僕に、森はひいたようだ。



「…早く行けよ」

「おう…じゃあな!」

「うん、今度は田舎でな」










あれ以来、彼女に会っていなかった。

アパートの前を通ることもしてない。




今度こそもう、どこかへ行ってしまったかもしれないと思ってた。