タクシーは止まった。
…お見事。
「高原くん、先に乗っていいよ。私はまたつかまえるから」
僕は彼女に言われるがままにタクシーに乗ったけど…
「福澤さんも一緒に乗ったら?僕は中野だけど…家どこ?」
「あ、全然逆方向だ。いいよ、私は」
「でも…」
「いいってば!運転手さん、中野ですって。行ってあげてください。じゃあね!」
彼女はドアを閉めた。そして手を振っている。
「発進していいですか?」
「…ちょっと待ってください」
窓を開けてもらい、彼女に僕の名刺を渡した。
「これ僕の連絡先…また会おうな!」
彼女は笑っているだけで、返事も頷くこともしなかった。
こうしてこの夜は、想像もしなかった時間を過ごし、別れた。
僕は後悔した。
男としてやっぱり、彼女を先に乗せるべきだったんじゃないか…と。
彼女は…無事に帰れただろうか…。
気になった。
彼女は自分の住んでいるところや連絡先は教えてくれなかった。
今度会う時は…彼女からの連絡を待つしかない。
でも…彼女からの連絡はなかった。