「もう拓真! なんで起こしてくれないのよ!」


バタバタと洗面所と居間を往復しながら拓真に八つ当たりをする朝。
今日から早く出なくていいと思ったら気が抜けて思いっきり寝坊した。


「昨日まで早起きしてたから起きてこないんて思わなかったんだよ」

「バカ! 謹慎あけ早々遅刻とかありえないんだけど!」

「あず! 薫さんにちゃんと挨拶しなさい!」

「ああもうっ!」


遅刻しそうだって言うのに!

乱暴に仏間に入ると線香をともす。
鈴を手早く乱暴に鳴らせば、ママが焦っている私をせせら笑う楽しそうな声に聞こえた。


「ママ。遅刻しそうだからもう行くね!」


何となく、気恥ずかしくなって私はさっさと立ち上がって鞄を抱えた。


「あず! 弁当もうできるから!」

「だからー! そんなんやってる暇あるんだったら起こしてくれてもいいじゃない! バカ拓真!」


拓真に近寄ればまた、意味不明に手の込んだ弁当だ。

折角作ってくれたのに失礼だと言われそうだけど、文句の一つでも言いたくのも分かってほしい。
優先順位の問題だ。


「もう時間無いから! 行ってきます!」

「あず!」


苛々した私は拓真のお弁当を無視して家を出ることにした。
本当に、自転車飛ばさないと間に合わない。

慌てて家を出て、一度通り過ぎかけた玄関のポストを覗いた。
こんな日に限って白い封筒が入っている。

私は他の郵便物と一緒に鞄の中に無理やりそれらを突っ込んだ。
駐輪場所から自転車を引っ張り出して簡素な門を通り抜けたその時だった。


「亜澄」


低い声に呼び止められたのは。
焦っていた所為で熱くなっていた体温がスッと下がった。


「……真人」


いつも朝練がある筈の真人が、すぐ傍の電柱に寄りかかるようにして立っていた。