「ほら、先にシャワー浴びておいで」

響哉さんは私に手だけを伸ばしてそう言った。

「……今、何時?」

私はその腕を掴み、眠い目をこすりながらそう聞いた。

「5時半。
 6時にはヘアスタイリストに来てもらう約束だから。
 どんなヘアスタイルにするか考えておいて」

「響哉さんは今日も仕事?」

「そう。
 本番まで休みなし。
 たまには仕事しないと、マーサに疑われる」

「疑わないわよっ」

「本当?」

「……多分」

意味の無い軽口のやりとりは、私からカルロスのことを少しの間だけでも忘れさせてくれた。