「……んっ」

耐え切れず甘い声を漏らすと、ようやく唇が離された。

「……きょう……っ」

いつ、シャツを脱いだのかしら。
服を着てないだけでこうも勝手が違うなんて思わなかった。

しかも、昨夜お風呂に入ってないばっかりに、朝っぱらからやたらとヘアスタイルまで決まってるんですけど。

響哉さんの大きな手のひらが私の頬を包み込む。
そうして、ふわりと笑う。

「そう。
 俺は梨音ちゃんじゃない。やっと思い出してくれた?」

「――え?」

響哉さんはシリコンの輪を手から外しながら覚えてないの? と、首を傾げる。

「梨音って俺に抱きついてきたから、びっくりした」

私の不ぞろいな髪を撫でながら、響哉さんが囁く。
そうして、私の耳元に唇を寄せた。

「これが知らない男の名前だったら、キスだけじゃすまなかったよ、きっと」


わざと平静を装って告げられる言葉。
でも、その声は冗談とも思いがたい熱を帯びていた。

「知っている人だったらいいの?」

私が茶化すと

「知ってるヤツだったら、そいつに直談判に行く」

なんて、言うのが可笑しくて仕方が無い。