「何、今の――」

唖然とする私に、梨音が苦笑を浮かべて言った。
梨音は、さぁ、と首を傾げる。

「何かしら?
 人間違えじゃない?
 行こう、真朝っ」

私に向けられるのは、ひだまりを思わせるような屈託のない笑顔――。


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今なら分かる。
アレはきっと、父親の自殺に錯乱しているカルロスと、それを宥めるヘンリーさんだ。


その時の私は――。
両親の事故をようやく受け止め始めていた。

義理の両親には迷惑をかけないようにしなくちゃと、人に甘えるのを封印した時期でもある――。


「ごめんね、マーサ。
 寒かったかな?」

艶やかな低い声で目が覚める。

目の前には、響哉さんの胸板。

「――な」

何言ってるの、と言おうと思った唇は、キスで言葉ごと塞がれた。