「それから……。
 後はただの彼の偏見だと思うんだけど……」

「最後まで訳してください」

さらりと流そうとしてくれた先生に、私は真顔で頼みこんだ。
仕方が無いな、と、ため息をついてから、先生は私の頭を撫でた。

「彼が言うには……。
 自分がいつまでたっても出世できないのも、こんなに小さな子が何の苦労もなしにお金持ちになれるのも、……この国が悪いからだ――だってさ。
 言ってる理屈は通ってないと思うけど、カルロスはそう言ってた」

「で、先生は何て言ったの?」

「『分かった、それで?』って言ってやったんだよ。
 そうやって全てを日本のせいにするくらいなら、本国で暮らせばいいだけじゃない? という俺の本音は飲み込んだ。
 ――響哉なら、そんなことは言わないだろうからね」

「響哉さんなら何ていうの?」

「さぁ。
 聞き流すんじゃない?
 他人の意見全て聞いていたらおかしくなってしまうくらいヤツの周りには人が集まってくるからね。
 ――しかも、大半は欲望に塗(まみ)れた奴らが」