そういって、少しだけ場を和ませると、表情を引き締めて、語りだした。

「カルロスが言うには――。

 カルロスの父は、最初日本の自動車工場で働いていたけれど、不況で失業した。
 メキシコで、日本人観光バスの運転手をしていたこともあって、長距離トラックの運転手として雇われた。
 けれども、その就労状況は過酷で、低賃金――。
 その激務のための疲労で、事故を起こしてしまった」

先生の口調は、淡々としたものだったけれど、やはりその内容は苦々しいもので。

私は、相槌さえ打てずに呆然としてしまう。

以下、ヤツの言葉を忠実に訳すね、と、前置きしてから先生は続ける。

「最初は、事故で記憶をなくした彼女も被害者だと思っていた。
 けれども――。
 昨日、御曹司と二人で連れ添っているところを見たら、居ても立ってもいられなくなった。
 自分は管理人から抜け出せないのに、あの日泣き濡れていた少女は、いまや億万長者の婚約者だ――」