「真朝ちゃん。
 今夜は、疲れただろう?薬を飲んで、ゆっくりお休み」

私が記憶の海に溺れそうになる寸前、佐伯先生がそう声をかけてくれた。

私は首を横に振る。

そうやって、先延ばしにしても意味が無いの。

だって――。

私は自分の左手をおそるおそる持ち上げて、そっと自分の頭に触れた。

やっぱり。
左側の髪の一部が、ごっそり、短くなっている。

ベッドの上で、とっさにナイフから逃れたとき、耳に響いた「ザク」っという音の正体は、私の髪の毛が切られた音だったんだ。

誰も、それに触れずにいてくれたから、私は今までそのことに気づかなかった。
一部だけ、髪の毛が短くなった私の姿は、相当おかしいに違いないのに。


顔面蒼白になる私を、響哉さんは強く後ろから抱きしめていた。

「明日、スタイリストさんに髪を整えてもらおうようお願いしてあるよ。
 エクステンションつけてもらおうか。それとも全部切りそろえてもらう?」