その言い草は、拗ねた子供のもの。
とても、30代半ばの良い年をした大人のものとは思えない。

「響哉さ……」

ふぅ、と、耳に息が吹きかけられて、思わず声が止まる。
だって、まだ、目の前に佐伯先生が居るんだよ?

「いいよ、頼太。
 マーサのことは俺にまかせて。
 靴も服も脱がせて、そのまま眠るほかないくらいの快感に溺れさせてやるから」

「……だったらいいけど」

……何が?

ふざけた会話に、頭がついていかずに、ふと何の気なしに俯いた。

重力に従って髪がばさりと落ちる……。


私は、息を呑んだ。
どうして、右側の髪しか見えないの……?

響哉さんの手が、私の左側の髪を撫ではじめたから?



……そうだっけ。
  違う気がする。
  私はまた、都合よく何かを忘れているだけじゃ……

心臓が急に煩く鳴り響きだした。