「……えっと、治療の前に一声掛けてもらえませんか?」

「響哉には目で知らせたんだけどなー」

先生はしれっとそう言うと、私の右手をとった。

「起き上がっちゃ、駄目?」

私はごく当たり前の質問をしたつもりなのに、響哉さんは「駄目」の一言でそれを制した。

しかも、響哉さんの手が、私の頭に乗せられたままなので、なんとなく起き上がりづらい。

「はい、左手もね」

先生は手際よく、手錠ですれた両手首を消毒し、ガーゼと包帯を巻いていく。

「……さ、俺が出来るのはここまで」

「――え?
 でも、これじゃお風呂に入れないわ――」

「一日くらい入らなくても大丈夫。
 寝付くまで傍に居てあげるから、今日はもうこのままお休み」

響哉さんは、佐伯先生がそこに居るというのに、気にすることもなく私を腕の中に抱き寄せる。