「響哉さんの前で泣くのがいやなんじゃなくて――。
 辛い気持ちを引きずるのが嫌なの」

それは、薄々気づいていた。
だから、パパとママのことだって、何度思い出す機会があっても気づかないフリで、今まで逃げてきたんだもの。

それなのに、響哉さんが強引に記憶の蓋をこじ開けていくようなことばかり言うから――。

「引きずらなくていい。
 でもね、封印されたマーサの記憶は、心の中でずっとくすぶっているんだよ。
 そうやってストレスを内に溜め込むよりずっと、ここで吐き出したほうが健全だと思って――。
 ――って、それは、俺のワガママなんだけど――」

響哉さんは言葉を切って、苦笑を浮かべる。

「そんなに俺って、頼りないかな?」

囁かれたのは、胸がきりきり痛むほど切ない声で――。
私は思わずかぶりを振った。