「響哉さん――?」

響哉さんが唇を離した直後、風が吹いた。
正確に言えば、ベッドに押し倒された。

私は、どうして良いか分からなくて、彼の名前を呼んでその真意を確認する。

「そうじゃないでしょう?
 その質問の答えは、明日。
 ねぇ、マーサ。マーサを攫った男はどんなヤツだった?目が覚めたとき、どう思った?
 泣きたいほど怖かったんじゃないの? 本当は、俺の助けを待っててくれたのに、俺が助けられなかったから――。
 ほら、怒っても泣いてもいいから」

そこで、響哉さんは一度言葉を切った。

困っている私の頬を、彼の大きな手のひらが包み込む。

「お願いだから、辛い気持ちを自分の内に封印するのはもうやめて。
 ――それとも、俺の前で泣くのは嫌?」

そう切り出した響哉さんの瞳の方が、今にも泣き出しそうで。
私は言葉に詰まってしまう。