「それに、響哉だってそのために日本に帰ってきたんでしょう?
 本当に、私には全然連絡してこない子なのに――。
 妬けちゃうわ」

すらすらと、舞台の台詞のように彼女の口から流れる言葉の信憑性も分からなくて、私は思わず佐伯先生に視線を投げていた。

先生は軽く目を細めてから、私の代わりに口を開いてくれる。

「響様、お言葉ですが響哉さんの帰国の目的は、それだけではありませんよ」

「あら、じゃあ何なの?」

「それは――」

「愛しい彼女を一目見るために決まってるじゃないですか。婚約する、しないで騒いでいるのはあなたたちだけ。彼女を巻き込むのは止めて下さい」


佐伯先生の言葉を遮るように、耳に慣れた低い声が流れてきた。


私は思わず、声がしたほうに目をやって立ち上がる。
カラン、と、派手な音を立ててスプーンが床へと落ちていった。