「何?
 俺のこと誘ってくれてんの?」

そういう軽口はいつの間にか得意になっていて。
考えもせずに口から出てきてしまう。

「明日どちらにお迎えに行くかの確認です」

相変わらず真面目に切り返してくるところが面白い。

「後で連絡する」

「え? 今教えてくださいよ、ちょっと――」

春花の説教が始まる直前、俺は逃げるように電話を切った。

「真朝を置いて帰るんですか?」

電話を切って、車を開けようとした矢先。
鋭い声が、耳に突き刺さってきた。

見れば、駐車場の壁に梨音がすがっていた。

「……授業はどうしたのかな~? 梨音ちゃん」

何故だろう。
真朝のことはちゃんと女性として見えるのに、梨音のことはずっと、小さなときのイメージが抜けない。

黄色い帽子をかぶって俺を睨んでいた、幼児の姿とだぶってしまう。

「見てお分かりの通り。
 サボりました」

堂々とした物言いに軽く首をすくめる。

「それは、俺がここの理事だと知っての発言?」