そう思った途端、フラッシュバックに襲われた。

脳裏に浮かぶのは、セピア色の光景。
スーツケースを引きずっている、背の高い青年の背中が、人ごみの中に消えていく。

『やぁだ、マーサもキョー兄と一緒に、いくのっ」

アメリカが何たるかをあまり理解しないままに、駄々をこねる子供の声。
だけど。
私は一歩も動けない。
誰かが強い力で私を抱きしめているせいだ。

……キョー兄ちゃんが消えちゃうっ。

考えるより前に、走り出していた。

もちろん、今は誰が私を抱きしめているわけでもないので、走った分だけ前に出る。

「キョー……っ」

私の声に、振り向く響哉さんの姿は、まるでスローモーションのように見えた。