そう言ってから、私に視線を戻す。

「ゆっくりおやすみ、マーサ」

おやすみっていったって、まだ、外、明るいじゃない。

「響哉さんっ」

私は思わず響哉さんに手を伸ばす。

「どうしてそんなに、よそよそしいの?」

ピキン、と、音を立てて空気が凍る。

「ま……」

響哉さんの瞳が揺らぐ。
それを阻止したのは春花さんだ。

「ほら、社長。
 時間がないんです、早く行っていただけますか?
 でないと、さすがの私のパパラッチを抑え切れません」

響哉さんは肩を竦めた。

「相変わらず、人を脅すのが上手いねぇ」

「……心外です」

響哉さんは春花さんの強い視線に押されるかのように、踵を返した。


一歩ずつ、その背中が私から遠ざかっていくのを、ただ黙って見送ることしか出来ないの――?