私はベッドから抜け出した。

くらり、と、一瞬足元がよろける。
それでも、世界がぐにゃりと曲がるまでは大丈夫に違いない。

ゆっくり瞳を閉じて立ちくらみを凌ぐと、響哉さんを追った。

響哉さんは、実家に私に逢いに着てくれたときのようなダークスーツに着替えていた。

「マーサ、寝てないと」

一瞬驚いたように瞳を見開いた響哉さんが、子供に向けるような笑顔を浮かべて言った。

それは、今までの笑顔に比べて、どことなくよそよそしいもので、私は胸騒ぎに似た薄い不安感に襲われる。