「ごめんね、マーサ」

耳元で懺悔にも似た声で謝罪の言葉が響いてきた。

「響哉……さん?」

私は思わず顔をあげる。

どうして、そんなに痛みをこらえるかのように辛そうな顔をしているの……?


響哉さんの携帯電話が鳴って沈黙を引き裂く。

「はいはい。
 何失敗してんだよ。もぉ――。
 なんとかなんないの? 分かった、俺が行く。
 代わりにうちでお姫様のことみててやってくれない?
 よろしくね。いいよ、自分で運転するから。
 夕食作れたっけ? じゃあそれ頼むね。添い寝はいいから」

そこまで言った後、不意に響哉さんが電話から耳を放した。

受話器の向こうから、喚き声に近いものが聞こえてくる。

響哉さんはしばらくそれを眺め、収まるのを待ってから耳を戻す。

「……俺の耳を壊す気か」