「離してっ」


 「捕まえたぞ。お前は俺の獲物だ」


 私は軽々と清明に抱え上げられた。


 「警察を呼ぶから!」


 そう告げてポケットから、携帯電話を取り出そうとしたけれど。


 携帯電話はログハウスで充電したままで、持って来ていない。


 ていうかこの場所で、電波が通っているはずもないだろうけど。


 第一警察なんてまだ、存在していないだろう。


 「ケーサツって誰だよ?」


 清明は意地悪な笑みを浮かべた。


 「ま、誰だか知らんが、この島で俺に逆らえる奴がいれば、お目にかかってみたいもんだ」


 そう言って大笑いしながら、馬を走らせた。


 派手な飾りで束ねられた長い髪が、風に揺れている。


 「降ろして!」


 「しっかり捕まっていないと、落っこちて骨を折るぞ」


 私は馬上、清明の握る手綱の中に座らされていた。


 清明はわざと、馬の速度を上げた。


 このままだと転落して、当たり所が悪ければ落馬死しそう。


 不本意ながら、清明の着物の衿付近を強く掴んだ。