「逃げるぞ!」


 私たちは走って逃げ出した。


 ここまで津波は来ないだろうと、油断したのが間違いだった。


 水城家の屋敷も危ないので、私たちも裏山に上ろうと考えた。


 屋敷の広い庭園が、この日はいつも以上に広く感じられる。


 裏山が、走っても走っても遠ざかっていくような錯覚……。


 庭園を突き抜けた時、私は後ろを振り返った。


 ちょうど波が、屋敷の建物を直撃した瞬間だった。


 屋敷は一瞬にして、木っ端微塵。


 亡き当主と七重の亡骸も、おそらく波へと飲み込まれていった。


 波が屋敷に衝突する衝撃で、弱まってここまで到達しないことを期待した。


 しかし。


 波は一気に屋敷を飲み込むと、そのまま私たちのいる庭園の奥へと向かって突進してきた。