「と、とにかく急いで逃げましょう」


 私は時間が迫っているのを思い出した。


 「どこへ?」


 「さっきもちらっと説明したけれど、私の時代に伝わっている伝承からすると、今日これからこの島に、かなりの大津波が来るようなの」


 「大津波……。それは海の神の怒りだろうな」


 「一刻の猶予もないから、さあ早く」


 「神が怒っているのなら、私はここから逃げることなどできないだろう」


 「清廉!」


 清廉は、動こうとしない。


 「海の神はきっと怒っている。神の聖なる力の代理人となるべきこの私が、罪でこの手を汚してしまって……」


 清廉は両手の手のひらをじっと見つめた。


 「だから、逃げることなど許されない」


 「ならば何もせず、津波が来るまでここで待っていると? むざむざ死ぬと?」


 清廉はそっと頷いた。