「だけど、殿に魔の手が及ぶなら、いっそ私の身を清廉に差し出せばよかった。そしたらこんなことにはならなかったのに……」


 七重は泣くふりをして、顔を両手で覆った。


 「泣くな、七重!」


 当然の成り行きで清明は、七重を抱き寄せる。


 「悪いのは清廉だ。あなたじゃない」


 清明は七重に盲目である。


 正常な思考が停止している。


 「殿が先刻、うわ言で口にしたの。こうなるくらいなら、最初から清明を後継者にしておけばよかったって」


 「え?」


 「生まれや血筋など関係ない、能力の優れた者を後継者にするべきだった、って……」


 「……!」


 物心ついた頃から、ずっと胸の奥に封印されていた野望。


 清明の奥に眠っていた思いが、呼び覚まされてしまった。