(…日向、また歌えるようになったんだな…。)

微かに響いてくる歌声を聞きながら、

凛は目を閉じ…

夕暮れ時の『庭園』を思い出す。

オレンジ色の夕焼けを身体一杯に浴びながら、

顔を空に向けて天を仰ぎ歌う、ヒナタの横顔…。

普段の幼さが消え、

まるで空を懐かしみ、帰りたがっている天女のようなヒナタの姿に…

何かを叫びだしたくなるような衝動を感じ、

練習中なのが分かっていても思わず声をかけそうになる自分を抑えていると…

必ずヒナタは自分に気付き、いつもの愛らしい笑顔を向けてくれた。

…その笑顔を見る度、ヒナタが天女ではなく、生きた舞乙女として

ここにいてくれる幸せを感じずにはいられない…。

それは、あの頃の凛にとって、

喜びであり、叶わぬ恋と信じていたが故の哀しみにも繋がり…。

(…叶わぬ恋か…。)

ヒナタに対しても、
日向に対しても…。

あの頃と変わらずに不器用なままの自分が、ここにいる。