我慢なんて知らない。

知らないフリなんてもう出来ない。

彼女の歌をもっと聴きたくて、届かないと理解していても周りと同じように手を思い切り伸ばして。


俺を正気に戻させたのはこの体育館を轟かすような大歓声の中、響き渡る拍手喝采とアンコールの声。

舞台の上には清々しいほど晴れやかな笑顔を見にまとう彼女と、号泣しながら後輩だろう女子学生に花束をもらう生徒。
引退してしまうのだろう彼らの姿には涙を誘われるものの、俺の目が捉えていたのは後にも先にも彼女一人だった。

「おう、榊(サカキ)!こんなところにいたのか。待たせて悪かったな」

「佑磨、お前が演劇なんて珍しいじゃないか」

「恋愛もの?面白かったか?」

遅ればせながらやってきた友人たちの声をどこか遠くで聴きながら小さな吐息を吐いた。

決めた。

俺は来年、ここに入学する。

そして彼女の隣に立ってみせる。


佑磨side end