暗く、電気の落とされた閉鎖空間。
甘い薔薇の香りと耳に心地良い柔らかな音楽に身を委ねて、決して広くはない舞台の上へ歩いていく。ここからは誰も知らない秘密の私の出番。紅の潤った唇から紡ぎ出される愛の謳はこの空間で幾つもの波紋を生み出し広がっていく。騒がしかった人の群れが次第に静まり返っていくのを満足げに見つめると白くて眩しいほどのライトが当たる中央へ。そこは愛おしい彼が佇む何度も夢見た場所。

「どうかもう一度、私の名を…」

今にも溢れ出してしまいそうな私の想いと、この舞台の"私"の恋心がリンクして熱い何かが胸をせり上がってくる。

そんな私を皆はどうみているの?



震える手を抱きしめて見上げた彼は、その瞳に"私だけ"を映してー…