…それから俺は、藍子を避けていた。
仕事中も、必要事項だけの会話。

家では、藍子に会わないよう、帰宅時間も別々。
朝は、藍子より先に出社した。

…会社での藍子は、そんな俺の行動に、ただただ困惑しているようだった。

そんな日が、何時日も過ぎた。

・・・自分はどうしたいのか?藍子と別れたいのか?
そんなわけないじゃないか。

俺は今も、藍子の事を愛している。
…それならば、なぜ真相を聞かない?藍子の気持ちを聞こうとしない?

こんなにも腑抜けな自分が情けなくて、もう、どうしていいかすら分からなくなっていた。


…ガチャ。

今夜もまた、深夜に帰宅した。

「・・・・」
「・・・・」

ドアの向こうで、もう何時からかは分からない。
藍子が俺の帰りを待っていた。

俺は、藍子から視線を外し、何も言わずに行こうとする。
…ビクッ。

俺の手を、藍子がギュッと握った。

…俺は、藍子の方を見る事もなく、静かに口を開いた。

「…離せ」
「離しません…大谷さんが、私の話しを聞いてくれるまで」

「…俺に話す事はない」
「…私が朝帰りしたから、怒ってるんですよね?」
「・・・」


「私が、澤田さんと朝までずっと一緒だったから、怒っているんですよね?」
「…だったら、どうだって言うんだ?…もう、藍子に、俺は必要ないだろう?
いつまでもこんな所にいないで、出ていけばいい」


「・・・本気でそんなこと言ってるんですか?」
「・・・あぁ、そうだよ」