こっちを見た阿久津と、……やっと、目が合う。
実際はそんなに近くない距離のはずなのに、やたらと至近距離に感じた。
視線はどうしても彼の唇を捉えてしまうし、心臓はどきまぎと超高速で稼働する。
「――わ、」
「はい」
「私にとって、あれは、初めての接吻でした……」
こんなことをカミングアウトしたいんじゃない。
頭が真っ白になってクラクラして、軽くパニックに陥ってどうしようもなくなる。
落ちつけ私。
「……そうですか」
「うん」
伝えてから、何でか今更ぐわーっと泣きそうになって唇を噛んだ。
――あれは、私にとって、初めての接吻でした。
恋愛にいくら疎い私だからって、そりゃあ、少しも、それに憧れがないわけじゃなかった。
いつか、好きな人ができたら、両想いになって、付き合って、夜景をバックにして、とか。夢見たり。想像だけでドキドキしたり。