私のその様子を見た阿久津は、一瞬驚いたように瞬きした。


それからふいっと顔をそらして俯いたから、もしかしたら照れてるのかもしれない。


し、私の滑稽な表情に笑いを堪えているのかもしれない。



……後者だったら大分傷つくんですけど。



まあこの際、どっちでもいい気もしてきた。




「あっ、阿久津……」


「……なに」


「阿久津って、……私のこと好きだったんだ?」


「急に自意識過剰だね辻野」




言い方こそ煩わしげで、声こそ不機嫌なものの、顔を上げないままのその姿をなんだか可愛く思うなんて、私はおかしいだろうか。


ない胸の奥が、きゅんっと音を立てた気がした。いつまで育たないでいるつもりだよこのヤロウ。



口元が自然と緩んで、指の先がちょっとだけ震えた。



阿久津が、何故私なんかにキスしたのか。その答えは本当は単純で簡単だった。



知ってしまったからには、気付いてしまったからには、こっちだって言いたいことがある。


負けっぱなしの言われっぱなしじゃ、悔しいじゃないか。



なんとかそれを喉元まで押しやって、口を開いた。



改まって口にするのは小っ恥ずかしいけれど、今この瞬間しかないって思った。