自分でも不思議に思うくらい、ぼーっと冷静に考えていれば、
「辻野」
不意に名前を呼ばれた。
「ちゅーしちゃだめ?」
「………………ふぇ?」
――熱もないし正気なのに?
意味を呑みこむのに時間がかかって、阿久津の表情を見れば勝ち誇ったように笑いかけられる。
びっくりして、彼の腕を超高速で払いのけた。
「――っな、何言ってんだ……!」
「この前のも、普通に正気だったんだけど」
「今、そういう冗談言うのよくない!」
「なんで冗談にすんの? 前も言ったよね、辻野は警戒心なさすぎ。もっと危機感持てよ」
「だ、だって……!」
友達相手なのに? 信頼してるのに、危機感ってなに?
この前、正気だったのにあんなことしたの。簡単にできちゃうの。
とか、色々聞きたいのに声が震えそうで、カッコ悪いところなんか見せたくなくて、負けたくなくて、うるさい心臓が落ち着くのを待った。