「……何その手」




阿久津は、自身を引っ張った私の腕を、払うことも受け入れることもせずにただただ怪訝そうに見つめている。



あ、服が伸びたから弁償しろって言われても困る、と思い立って慌てて離した。


阿久津の着ている服は、いつだって高そうな柔らかな素材なのだ。




「……まさか家ん中までついてくる気、起こしてるんじゃないよね?」


「……だめ?」


「あのさあ」




一歩後ずさった。



珍しく憎たらしい感じでなくて、でも決して穏やかな感じじゃない、にっこりと微笑んだ阿久津の笑顔とは裏腹に、声は低くて一瞬怯む。



――やっ、やっぱり怒ってるんじゃん……!



彼の醸し出すオーラは明らかどす黒く、苛々している様子が窺えて、私は苦笑いを浮かべるほか言葉を発することができない。




「辻野、この前ので懲りたんじゃないの? いい加減学習しろよ」


「ご、ごめん……?」




阿久津の態度に圧倒されたまま素直に謝れば、今度は私の方が腕を引かれた。