「面倒な客がきたな」
「……」
「閉店前なんで、手短によろしく。延長はなしで」
微笑んだ理玖のこの表情は、やっぱり昼間と同じ営業スマイルなんだろうか。
「お名前は?」
「美夜……。中嶋美夜です」
「何て呼べば?」
「美夜でお願いします」
「よろしく、美夜」
一瞬にして消えたその声の中、初めて理玖が私の名前を呼んでくれた事に気づいた。
いつもより近い視線。今は、見上げる事はしなくて良い。
こんな形でも女の子の場所としていられるこの時間と、何より、私のワガママに付き合ってくれてる理玖に、たくさんのお礼を言いたい。
「何か話したい事とかある?」
「理玖の話しやすい事でいいよ」
刺々しさのない柔らかな口調に新鮮さを感じる。