その時、人混みの合間をぬって、茗と理玖が戻って来た。



「うぃーす、ただいま」

「よお、お帰り。汚れ取れたか?」

「取れるわけねえだろ。理玖の奴、浴衣ビチャビチャに濡らしただけで余計に汚れたっつーの」

「だから、俺は最初から無理だって言っただろうが」


呆れ顔をした理玖が、ふいに私に顔を向けた。

トクンと一つ胸が高鳴る。



「美菜。おい」

「あっ、茗。何?」

「あっ…じゃねえよ。ハンカチ貸してくんない?ハンカチ」

「自分の持って来てたじゃん?」

「さっき濡らした」

「仕方ないなあ……」



と、ハンカチを手渡そうとした私は、なぜか、一瞬、戸惑った。


「どうした?」

「ううん。ごめん、何でも」



茗が、私を好き――?そんな事……、やっぱ有り得ないよ……。

顔を上げ、再び理玖に目をやると、理玖は既に恭平と笑い合っていた。



「うわー、べたべた」


一人言の様に呟く茗の声を耳にしながら、私の心の中は動揺と高鳴りが交錯していた。