「・・・でも、なんか・・・瞬を見ていると羨ましくって。
もしかしたら、自分にもあんな風になれる相手がいるんじゃないかって・・・」
なぜ原さんにここまで話しているのか。
「あら、先生。彼女さんを捨てるんですか?」
「いや、捨てるって・・・」
「そうじゃないですか。29歳で6年付き合った彼氏に振られるとか私なら耐えられない」
「・・・やっぱりそうですか」
「先生、『やっぱりそうですか』じゃないですよ!
一番大事なのは、気持ちですよ。自分を想ってくれない人と一緒にいても幸せにはなれませんよ」
すごく説得力があった。
「原さん・・・」
「彼女さんには悪いですが、先生が私にこの話をしている時点で、答えは出てるんじゃないですか?」
「えっ・・・」
「一番わかってるんでしょ?先生自身が」
「・・・・・・」
初めから、見透かされていたんだ。
そりゃそうか、
「女性は30歳までには結婚したいものなんでしょうか?」
という聞き方をしている時点で、結婚する気がないと言ってるのと同じだな。
原さんの手のひらで転がされているのが否めなかった。
「せんせ~、患者さんお呼びしますよ」
「はい。お願いします」
僕の一日が始まった。