「先生、ありがとうございます」


病室を出ると、百井さんが頭を下げてくれた。


「いや、僕は別に・・・」


「殿村さん、なかなかお薬を飲んでくれなくて・・・脳梗塞のお薬はなんとか飲んでくださるのですが・・・それ以外は飲まんって」


「そうなんですね。でもよかった」


「はい」


百井さんはさっきまでの表情とはうって変わり笑顔を見せてくれた。


ナースステーションに戻ると、誰もいなく静まり返っていた。


そして、百井さんに渡された殿村さんのカルテに記入しはじめた。


ボールペンを置くと、向かいに座っている百井さんが何か言いたげにしているのがわかった。


だから、僕から声を掛けた。



「百井さんって、瞬と付き合ってるんですよね?」


一瞬、体がこわばったのが、向かいに座っていてもわかった。


「ご存知だったんですね」


少し申し訳なさそうに言う彼女は、肩をすくめていた。


「知ってるのは知ってたんだけど、どの子かは知らなかったんです。

でも、『ももちゃん』と呼ばれているので気付きました。

あなたが瞬の彼女であることと、瞬が『俺様ドクター』と呼ばれていることも」



僕が話し終えると、眉をひそめて困惑していた。


おそらく俺様ドクターのことを知られたからだろう。


「大丈夫。瞬に言わないから」


そんなことは言わないから大丈夫だよ。


「すみません。ありがとうございます」
仕事っぷりは瞬とよく似ているけど、他は割とおとなしめの子かな?という印象を持った。


もちろん、美人で性格もよさそうだが、あの瞬をあそこまで骨抜きにする魅力はどこなのだろう。


探ってみたいが、これ以上関わると瞬に怒られそうだからやめておこう。