「榊先生、看護師の百井ですが、腹痛を訴えている患者さんがいらっしゃるので診ていただけますか?」


瞬との電話を切ってすぐ内線が鳴ったので出ると、タイミングよく百井さんからだった。


「はい。わかりました。すぐに行きます」


薄暗い廊下に出て、エレベータに乗り、2階のボタンを押す。


あっという間に2階に着き、扉が開くと、目の前には百井さんが待ってくれていた。


「先生、ありがとうございます。こちらです」


僕を案内する姿には、無駄な動きはない。


それが瞬に似ていて、思わず笑ってしまいそうになった。



「殿村さん、先生が来てくださいましたよ」


百井さんに案内されて来た個室には、殿村栄伍と書かれていた。


唸るようにくるしんでいる殿村さんのベッドに近づき、様子を伺う。



「殿村さんは、脳梗塞にて8月8日より入院。
3日前から便が出ていないのですが、お薬を飲むのを嫌がられているので出ていません」


僕が殿村さんに話し掛ける前に、入院した経緯、最近の様子などを簡潔に説明してくれたことに感心した。


「ありがとうございます」


「殿村さん、今からお腹を診ますね。パジャマを上げますね」


そう声を掛けると、いつの間にかベッドの向かい側に移っていた百井さんがお腹を出すのを手伝ってくれた。


殿村さんの反応を見ながらお腹を触ると、やはり便秘による腹痛のようだった。


「殿村さん、便を柔らかくする薬を飲みませんか?楽になると思いますよ」



しばらく渋っていたが、余程痛いのか観念して、「お願いします」と言ってくれた。