「榊先生、こんにちは」
立花病院に着いてナースステーションに入ると、看護師さんが声を掛けてくれた。
「こんにちは」
さりげなく名札を見ると、『木村』とあった。
瞬の彼女は『百井』だったはず。
カルテをチェックしながらもナースステーション内に入ってくる人がいると顔を上げた。
「先生、こちら重症患者さんのカルテです」
と先ほどの木村さんが数冊のカルテを僕の前に積み上げた。
「ありがとうございます」
「ももちゃん、206の鈴木さんどうだった?」
木村さんが口にした名前に僕の耳は反応した。
『ももちゃん』ってもしかして『百井』=『ももちゃん』か?
僕は顔を上げ、『ももちゃん』を確認しようとした。
僕が顔を上げた瞬間、『ももちゃん』と目があった。
色白で目鼻立ちがはっきりしていて美人だ。
メイクも濃くなく清楚な感じがする。
背は加奈よりは低そうだが、高い方ではないか。
「榊先生、お疲れ様です」
この『ももちゃん』も僕の名前を覚えてくれているらしく、呼んでくれた。
「お疲れ様です」
彼女の声は、高くもなく低くもなく、穏やかな感じだった。
彼女は僕に軽く頭を下げると、木村さんと話し始めた。
その表情の変化に驚いた。
僕には優しく笑ってくれたが、仕事の話となるとキリッと表情が締まっていた。
なるほど。
この子も瞬と同じで仕事人間だな。