「はい、もしもし」
電話の相手は、高校の同級生の上野山だった。
電話に出た後に「しまった」と思った。
「ジラフ~助けてくれ~」
ほらきた。
やっぱりだ。
上野山は、立花病院の事務次長をやっていて、当直医師を確保するのが仕事の一つらしい。
このお盆前の時期に「助けてくれ」と言うことは、お盆休み中の当直医師が決まらないのだろう。
「どうした?」
要件はわかっているが、聞いてみる。
「ジラフ、当直入ってくれへんか?」
ほら、やっぱり。
「上野山、僕に電話を掛けてくるのは、盆と年末年始だけやな」
そう、盆と年末年始は当直に入ってくれる医師が少ないらしく、僕に助けを求めてくる。
「そう言うなよ~。頼む!」
「瞬は?今、お前のところに行ってるんやろ?」
瞬は、昨年末から立花病院で非常勤で診察や当直に入っている。
「もちろん瞬にも頼んでる。それでもまだ足りないんや」
本気で困っているようだ。
まあ、初めから断るつもりもないけどな。
「まあ、いいよ。で、いつ入ったらいい?」
「ありがとう!ジラフ!恩にきる!」
上野山は僕に当直に入って欲しい日付を言って、「じゃあ、よろしく」と電話を切った。
「まあ、いいか」
加奈は盆休みもないらしいし、特にやることもないので、仕事があっても困ることはない。
それに今回は一つ楽しみがあるんだ。
瞬の彼女が見れるかもしれない。
これまで何回か立花病院の当直に入ったことはあるが、看護師さんの名前まで覚えていなかった。
お盆期間中に二日間当直を頼まれたので、少なくともどちらかで会えるだろう。