午後診の最後の患者さんが診察室を出ると、パソコンに向かった。


「先生、お先に失礼します」


「はい、お疲れ様です」


原さんが帰ったのを確認すると、受信メールを開いた。

診察の合間に確認した時に、ある名前があったのだ。


『熊谷玲子』


彼女の名前を見つけた途端、反射的に受信メールボックスを閉じてしまった。

決してやましいことがあるわけでもないのに。




榊クリニック
榊 倫太郎 先生 御侍史

平素よりクエスト研究に多大なるご支援を賜り、誠にありがとうございます。
クリニカル リサーチ株式会社 熊谷と申します。

本日は、ご多忙の折、面談の機会をいただき誠にありがとうございました。

次回の訪問につきましては、後日メールにてご相談させていただきたく存じます。

ご不明な点、ご要望等ございましたらいつでもご連絡くださいませ。

何卒宜しくお願い申し上げます。


クリニカル リサーチ株式会社 熊谷 玲子拝

※※※※※※※※※※※※※※※※※※
クリニカル リサーチ株式会社
熊谷 玲子
〒〇〇〇ー〇〇〇〇
△△△市×××区□□1‐2‐34
〇〇-〇〇〇-〇〇〇
r.kumatani@×××-△△△.ne.jp
※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ビジネスメールとしては、ごく普通のものだったが、顔が緩むのがわかった。


「後日、メールくれるのか・・・」


そう呟きながら返信メールを作成し始めた。



クリニカル リサーチ株式会社
熊谷 玲子様

いつもお世話になっています。
榊クリニック 榊倫太郎です。

今後共よろしくお願いいたします。



「こんな感じでいいよな・・・。送信っと!」


大した文面でもないのに、何度も確認してようやく送信できた。

楢崎さんの時だとこんなに緊張することはなかったのに。

そんなことを考えているとスマホが鳴っていることに気づいた。