午後診の最後の患者さんが診察室を出ると、パソコンに向かった。
「先生、お先に失礼します」
「はい、お疲れ様です」
原さんが帰ったのを確認すると、受信メールを開いた。
診察の合間に確認した時に、ある名前があったのだ。
『熊谷玲子』
彼女の名前を見つけた途端、反射的に受信メールボックスを閉じてしまった。
決してやましいことがあるわけでもないのに。
榊クリニック
榊 倫太郎 先生 御侍史
平素よりクエスト研究に多大なるご支援を賜り、誠にありがとうございます。
クリニカル リサーチ株式会社 熊谷と申します。
本日は、ご多忙の折、面談の機会をいただき誠にありがとうございました。
次回の訪問につきましては、後日メールにてご相談させていただきたく存じます。
ご不明な点、ご要望等ございましたらいつでもご連絡くださいませ。
何卒宜しくお願い申し上げます。
クリニカル リサーチ株式会社 熊谷 玲子拝
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クリニカル リサーチ株式会社
熊谷 玲子
〒〇〇〇ー〇〇〇〇
△△△市×××区□□1‐2‐34
〇〇-〇〇〇-〇〇〇
r.kumatani@×××-△△△.ne.jp
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ビジネスメールとしては、ごく普通のものだったが、顔が緩むのがわかった。
「後日、メールくれるのか・・・」
そう呟きながら返信メールを作成し始めた。
クリニカル リサーチ株式会社
熊谷 玲子様
いつもお世話になっています。
榊クリニック 榊倫太郎です。
今後共よろしくお願いいたします。
「こんな感じでいいよな・・・。送信っと!」
大した文面でもないのに、何度も確認してようやく送信できた。
楢崎さんの時だとこんなに緊張することはなかったのに。
そんなことを考えているとスマホが鳴っていることに気づいた。