「先生も若い子の方がいいですよね」


黙っていた楢崎さんは、ニヤニヤしながら声を掛けてきた。


「いや・・・そんな」


「楢崎さん、結婚されるんですって?」


僕が返事に困っていると、原さんが顔を出した。


「はい、そうなんです」


楢崎さんは、嬉しそうに目を細めた。

そして、楢崎さんを見る熊谷さんも嬉しそうにしていた。


「いいですね~せんせ~。やっぱり先生も結婚されたらどうですか?」


突然、こっちに振られても困る。


「いや・・・」


「先生、ご結婚されていないんですか?私、てっきりご結婚されているのかと思っていました」


「いや・・・まぁ」


「そうなんですよ~。ねぇ、先生。あっ、熊谷さんは?ご結婚は?」


こうなった原さんを誰も止めることはできない。

ほら、熊谷さんも困ってるやん。


「いえ、私も・・・」


そうなんだ・・・結婚してないんだ。


「そうなんですね!まだお若いですもんね?おいくつなんですか?」


「原さん、ちょっと・・・いきなり」


「あら、私ったら調子に乗りすぎたわ。ごめんなさいね」


原さんは、眉を下げて申し訳なさそうに下がった。


「いえ、大丈夫です」


熊谷さんは優しく笑ってくれていた。

でも、きっと驚いているだろう。

こんなところの担当なんて嫌だとか思ってないかな?

「すみません・・・悪い人じゃないんですけどね」


「ふふふ・・・はい」


熊谷さんは、僕のフォローがおかしかったのか、笑いながら頷いてくれた。


「あっ、先生、では訪問日は後日メールでご相談させていただきます」


「はい、お願いします」


「では、今日は、失礼いたします」


そう言うと、熊谷さんは立ち上げり一礼した。


「はい、ご苦労様でした。楢崎さん、ありがとうございました。末永くお幸せに」


「ありがとうございます」


最後に楢崎さんが一番の笑顔を向けてくれたのが印象的だった。