「どうぞ、今患者さんいないので」
「ありがとうございます」
奥から原さんと楢崎さんの声が聞こえてきた。
「先生、お忙しい中すみません」
今度は、診察室のドアからではなく、職員用通路から来た楢崎さんは、相変わらず診察室の少し手前から僕に声を掛ける。
「いいえ、ご苦労様です。どうぞ座ってください」
僕は、診察室の椅子に座るように促した。
「失礼します」
と応えたのは、楢崎さんではなく、熊谷さんだった。
「先生、この検査は検診で結果も異常なしでよろしいでしょうか?」
手際よくカルテと検査データを広げて見せてくれた。
「はい、そうですね」
「この時は、風邪をひかれてこちらのお薬を処方されたのですか?」
「そうですね」
「お薬を飲みきって回復したとしておいてよろしいでしょうか」
「はい、そうですね。お願いします」
驚いた。
見た目の柔らかな印象とは違って、仕事をする姿はテキパキしている。
しかも質問は、カルテに記載された内容、病状などを正確に読み取った上で、無駄がなかった。
楢崎さんとはタイプが違う。
「あと、先生、訪問時間のご相談ですが、13時からではご都合は悪いでしょうか」
「13時ですか。大丈夫ですよ。診察時間外ですが、院内には必ず誰かがいますし」
そう答えると、熊谷さんは「ありがとうございます」とニッコリと笑ってくれた。
その笑顔に僕の顔が緩むのがわかった。