「ジラフ、俺、結婚する」


そう友人から聞いたのは昨夜のことで、僕は驚いた。


ちなみに、ジラフとは僕のことで、名前の榊倫太郎を『さかきりんたろう』と平仮名にすると、
中に『きりん』とあることからジラフと呼ばれるようになった。

その名付け親は、今僕らが食事をしている創作料理店のオーナーである道端雄哉だ。


そして、僕の目の前にいるのは高校時代からの友人で医師の佐々木瞬。

つい最近まで結婚する気なんてないと言っていた彼からの報告に驚くと同時に焦りを感じた。


瞬は、男の僕から見ても完璧で、背は高いし、ルックスは申し分ない。


欠点を一つ挙げるなら、仕事が好きすぎることだ。

幾度となく彼女に「私と仕事どっちが大事なの？」と言われるくらい、

何事よりも医師という仕事を優先していた。

最近では、「俺一生独身でいいし」と独身貴族を楽しんでいるようにも見えた。


そんな瞬からの結婚宣言だったので、俺は飲んでいたビールを吹き出しそうになった。


そして、僕の中で、一瞬にして焦りが出てきた。


「まじか！瞬、結婚する気なかったやん」

「まあな」

口角を少し上げてニヤリと笑うと、瞬は腕を組んだ。


「結婚する気なんてなかったよ。でもな、居るもんやな。運命の相手ってのは」


自分の耳を疑った。

瞬が「運命の相手」なんて言葉を使うなんて信じることができなかった。


しかも、17年程の付き合いの中で、見たことのない柔らかな表情をしていた。