「もうすぐ夏期講習が始まるんでしょ?」
「そうそう。朝から夕方までね。その代わり早く帰れるけどね。だから、ご飯とか食べに行こうね」
長期休暇の講習時期は、朝から夕方まで講習があるので、普段よりは早く帰ることができることもあり、仕事終わりに会うこともある。
「あっ、そうだ。タローくん、9月20日から1週間休み取れそうなんだけど、今年はどこに行く?」
夏休み中は、休みを取ることができないので、9月に夏期休暇を取ることになる。
その時期に旅行することが恒例となっていた。
「あっ、20日からか・・・ちょうど学会があったりで忙しくなると思う」
そう、うちの診療所で珍しい症例があり、その経過などを発表することになったのだ。
それが、9月21日から始まる学会で発表したり、大学での講師の依頼もあったりと本当に忙しくなりそうなんだ。
「そっか・・・それじゃ、今年は旅行なしだね」
彼女は1年に1度の旅行を楽しみにしていたようで、いつもなら、「気にしないで」と笑顔を見せてくれるが、今は表情は曇っている。
「ごめんね」
「うん、仕方ないよ。仕事だし」
おそらく消化はしきれていない気持ちを無理に押し込めているのだろう、少し苦しそうだ。
彼女のことだから、もう行先もほぼ決めていたのだろう。
「友達と行ってきたら?」
少しでも気持ちが楽になって欲しいと思って言ってみたが、簡単にはいかなかった。
「そうだね」
そう言って彼女は、苦いアイスコーヒーを一口飲んだ。
その笑顔は、晴れていなかった。
「ねぇ、タローくん、明日は休み?」
「あぁ、休みだよ」
「じゃあ、泊まりに行ってもいい?」
ニッコリと笑う彼女の表情は、いつの間にか晴れていた。
「うん、いいよ」
「タローくんと仲良ししたいの」
「ぷっ」
僕は、飲んでいたアイスティーを吹き出しそうになった。
いつだって彼女は想いをストレートに口にする。
さすがに「セックスがしたい」とは言わないが、「したい」ということをアピールする。
これも、僕から誘わないからこうなったのかもしれない。
でも、食事中に言うことはないだろ。
「ねぇ、いい?」
首を傾げながら聞いてくる彼女は、可愛い。
でも、聞いている内容は大胆だ。
「うん、いいよ」
拒否をする理由なんてない。
僕だって男なんだから、そういうこともしたいと思う。
ただ、必須ではない。これも、草食男子の特徴だと雄哉に教えられた。