茶色の影から時々見え隠れする真っ白な紙に手を伸ばした。


けれどそれはすぐほかの茶色に阻まれてしまう。


もどかしくて噛みしめた奥歯が鳴り慌てて緩める。


まさかこの喧噪の中で誰か聞いているなんて思わないけれど。


それよりも一歩打ち鳴らした足の方がなんとか私自身の耳に届く。


すこしだけ前進したけれどなにも変わらない。


もう一歩、と上げる足、ちょうどその時ふいに背中を押される手、小さな悲鳴。


私の体が傾いて思わず目の前のベージュをひっつかむ。


後ろから急に加えられた力に驚いてその体がこわばったけれど私はほとんどなにも考えていなかった。


ただ無意識に握りしめた手。


だから差し込まれた腕が私を受け止めたことに気づいたのはそのまま抱き起こされてベージュ色のブレザーの中に見え隠れするシャツの白さを見てもまだで上から振ってくる声に顔を上げてようやくだったのだ。


「大丈夫?」



ごく自然に問う目は柔らかそうにすこしだけ弧を描いている。


困った子を見る親の目によく似ていた。