息だけが、口から出て…言葉が出てこない。

その代わり、涙が流れた。

そんな可憐を見て、松崎は何も言えなくなった。

だけど、言わなければいけないことは、あった。


「俺は……俺達は、お前を捨てたわけじゃない!居場所が、わからなかったんだ!どこに行ったのか!探したが…わからなかったんだ!」

「言い訳は、いいわ!もう…出てってよ!!!」

可憐は、絶叫した。

松崎は、狼狽えながらも、

「お、お前は…智子に、誘拐されたんだ!」

「何も聞きたくない!」

もう話したくなかった。出ていかない松崎に、たまらなくなって、可憐は松崎を押し退けて、外に飛び出した。

「可憐!」

松崎は、可憐を止めることができなかった。数年ぶりに会った娘に触れることが、できなかったのだ。

だから、叫ぶことしかできなかった。


「お前のお母さんは…本当のお母さんは、別にいる!ずっと、お前を探して…ずっとお前を待っている!俺の店で!」



可憐は、松崎の声を背にしながら、アパートから飛び出した。



アパートが、見えなくなる距離まで走った。


「あっ…鍵閉めてこなかった……」

可憐は、足を止めた。

でも、戻る気にはならなかった。