「はい」

無愛想な口調で、サキは電話に出た。

携帯は便利だ。

相手がわかる。

まあほとんどは、仕事がらみだから、言葉遣いに気を使うが、

今回の相手は、別だった。
「…いつになったら、返事をくれるんだ?」

受話器から聞こえる男の、上からの口調に、サキは軽くキレていた。

「まだ…決めてないわ」

サキは、家にいた。

こじんまりしたマンションの一室は、質素であり、

何もなかった。

店への通勤を考えて、借りたマンションに、サキは愛着はなかった。

いずれは、ここを捨てて…水商売をした自分も捨てるつもりだった。

女の花は、短い。

それを如何に使うかが、女の度量と言えた。

周りで、枯れても、水商売を続ける女達…サキにはそんな生き方を、選ぶ気はなかった。

スナックのママなんて、サキには耐えれなかった。

若い女は、今の待遇がいつまでも続くと思う。

年老いても、昔にすがる女は…年老いた男達にもすがる。女であることだけを、武器にして。

サキは、すべてが…最低の馴れ合いだと思っていた。


なぜなら、サキの母親も、そんな女だったから。

女であることは武器になるけど…それにすがりたくは、なかった。

年ゆく自分…若さという必ず、過ぎ行くもの。

女であるとは何なのか……。

母親になったら…あたしは、変わるのだろうか。

だけど…自分の母親は…変わらなかった。

物思いに耽っていると、電話の声が、せかした。

「給料は、倍だそう…」


その言葉の後、適当に話して、サキは電話を切った。

この商売…金がすべてだ。

もう少しで、30になる。

それが、悪いのか。

歳を取ることが…悪いのか。

見た目は、若いサキは…見た目を保ちながら…止められない歳の足枷を感じていた。