「初めてだよ。ここ十年で」

社長は、通話時間を確認した。

「本当に、つながったんですか?」

優希は、少し興奮したように、社長にきいた。

「ああ…だけど、一言も話してくれなかったがな」

社長は、携帯を優希に渡した。

「本当に…」

優希は、携帯を持ちながら、履歴を見て…震えていた。

「智子は…許してくれたのかしら…」


社長は、椅子から立ち上がり、ディスクから出ると、

優希に近づき…そっと肩に手を置いた。

「優希…。お前が、悪い訳ではない」

社長は、肩を少し握ると、もう一度…ぽんと叩いた。

「お前のせいじゃない…」

社長は、優希から離れ、

優希に背を向け、

「俺が、不甲斐なかったからだ…」

社長は、両手を握り締め、わなわなと身を震わせた。

社長の口調に気づき、

優希は振り向くと、社長に駆け寄り…後ろから、抱きついた。

「あなたのせいでもないわ」

「優希…」

社長は目を瞑り、優希の暖かさに、涙を流しそうになった。

「今はただ…可憐が元気であるのか…それだけが、気がかりです」

「そうだな…」

優希の言葉に、社長は頷いた。