「もし」

いきおいよく、携帯を耳元に持ってきたけど、

「もし………」

語尾が小さくなり、

次の言葉が続かない。


しかし、

そんな可憐の必死の行動も虚しく、

「………」

電話は切れていた。

緊張の為か…しばらく、そのことに気づかなかった可憐は、

「はあ〜ああ…」

力無く、ため息をつくと、

国道沿いに並んだ花壇の縁に、座り込んだ。

力が抜けた。

それが、安心や安堵からなのかは、自分ではわからなかった。

花壇と順番に植えられたポプラの木の、影に隠れながら、

可憐は、携帯の画面を見た。

番号を確認した後、

可憐は徐に鞄から、先程解約した母親の携帯を、取り出した。

もう何年も前のタイプだろう。

ピンクの表面は、傷だらけで、画面の色も悪い。

可憐は、母親の携帯を木の隙間から、こぼれる木漏れ日に、照らした。

「大事なものなんだ…」

可憐は、母親の性格を知っていた。

飽き症で、すぐに物を壊していた。

そんな母親が、ずっと持っていたのだ。

可憐は、その携帯が何よりも、綺麗に感じた。